発刊によせて

Precision medicine が提唱されて久しいが、実はわが国における抗癌剤感受性試験の研究の歴史は古い。しかし、その精神は貴いが、これまでに固形癌の治療で大きな足跡を残したとはいい難い。そうした中、抗PD-1 抗体薬による新たな免疫療法が臨床に導入され、その効果がMMR 機能検査により臓器横断的に予測可能になり、加えて、この検査の費用もその後の免疫療法も保険収載されたというのはとてつもない前進であり、朗報である。問題は、エビデンスに基づく薬物療法がすでに存在する癌種も多い中、どの段階でMMR 機能検査を行い、抗PD-1 抗体薬を使用するかである。さらに、いよいよ次世代シーケンスによる網羅的なゲノム解析が導入されようという中で、MMR 機能検査としていかなる検査方法を採用するかも大きな課題と思われた。ゆえにMMR 機能検査とその結果に基づいた免疫療法についての何らかの指針は必要と推測され、その作成が真剣に検討されたのは2018年1月4日の事であった。そして、MMR 機能欠損固形癌を希少癌フラクションとみなして、厚生労働省・がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上」から資金を提供し、3月4日にこのテーマに詳しい先生方の初顔合わせが行われた。ここで指針を作成する意義が確認され、この時のメンバーが作成ワーキンググループとなり、吉野孝之委員長の力強いリーダーシップのもと、「暫定的臨床的提言」の作成が進められた。

私も付け刃で「暫定的臨床的提言」の作成ワーキンググループに参加させていただいたが、このグループは様々な分野、領域を代表する極めてプロフェッショナルな集団であり、各委員が吉野委員長の計算しつくされた挑発に間髪を入れずに反応する感度とその発言の鋭さたるや、しっかりとした筋書きがありテンポよく展開されていくドラマを見ているような爽快感があった。濃密な時間を共有することが出来、大いに勉強になったことを感謝するばかりである。近年、ガイドライン作成に際しては一般人、あるいは患者代表をメンバーに加えることが望ましいとされているが、今回の私の役割はそのあたりであったのかもしれない。

今後のエビデンスの蓄積により、この「提言」は「ガイドライン」へと成長していく予定であるが、まずはこの形で皆様に手に取っていただき、その結果として適切な治療を患者さんに漏れなくお届けできれば幸いである。

日本癌治療学会 がん診療ガイドライン作成・改訂委員会 委員長
名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学
小寺 泰弘