4. クリニカルクエスチョン(CQ)

CQ1
dMMR 判定検査が推奨される患者
標準的な薬物療法を実施中、または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する。

推奨度Strong recommendation [SR: 15, R: 1, ECO: 0, NR: 0]

米国食品医薬局(FDA)は、ペムブロリズマブの5 つの臨床試験(KEYNOTE-016 試験、KEYNOTE-164 試験(コホートA)、KEYNOTE-012 試験、KEYNOTE-028 試験、KEYNOTE-158 試験)のうち、化学療法後に増悪した進行・再発のdMMR 固形がん患者149 名の統合解析結果をもって、2017年5月23日に大腸がんを含む標準治療抵抗性もしくは標準治療のないdMMR 固形がんに対してペムブロリズマブを承認した。本邦では、アップデートされたKEYNOTE-164 試験(コホートA)、KEYNOTE-158 試験の結果(表12)をもとに、2018年12月21日に承認された。

表12. KEYNOTE-164/158 試験におけるdMMR 固形がんの種類別奏効割合 54, 55)

   

奏効割合

n (%)

大腸がん

61 17(28%)*

大腸がん以外の固形がん

94 35(37%)**
子宮内膜がん 24 13(54%)
胃がん 13 6(46%)
小腸がん 13 4(31%)
膵がん 10 1(10%)
胆道がん 9 2(22%)
副腎皮質がん 3 1(33%)
中皮腫 3 0(0%)
小細胞肺がん 3 2(67%)
子宮頸がん 2 1(50%)
神経内分泌腫瘍 2 0(0%)
甲状腺がん 2 0(0%)
尿路上皮がん 2 1(50%)
脳腫瘍 1 0(0%)
卵巣がん 1 0(0%)
前立腺がん 1 0(0%)
後腹膜腫瘍 1 1(100%)
唾液腺がん 1 1(100%)
肉腫 1 1(100%)
精巣腫瘍 1 0(0%)
扁桃がん 1 1(100%)
*
大腸がん奏効割合95%CI:17-41%
**
大腸がん以外の固形がん奏効割合95%CI:28-48%

またdMMR 大腸がんを対象としたニボルマブ単剤療法またはニボルマブ+抗CTLA4 抗体薬イピリムマブ併用療法の試験(CheckMate-142 試験)では、ORR はそれぞれ 31%、55%、PFS 中央値はそれぞれ未到達という良好な結果が報告されている 57, 58)。治療効果はPD-L1 発現の程度やBRAF/KRAS 遺伝子変異の有無、リンチ症候群か否かに関わらず認められた。また、EORTC QLQ-C30 を用いた患者評価では、QOL や臨床症状の改善を認めた 57, 58)。この結果をもとに2017年8月フルオロピリミジン・オキサリプラチンおよびイリノカンによる治療後に病勢進行したdMMR 転移性大腸がんに対してニボルマブ単剤療法が、2018年7月にニボルマブ・イピリムマブ併用療法がFDA で承認された。抗PD-L1 抗体薬であるデュルバルマブにおいても、dMMR 大腸がんを対象とした第Ⅱ相試験、dMMR 固形がんを対象とした第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われ、ORR は大腸がんで22%、全体で23%と有効性が示された 59)。その他にも症例報告や前向き第Ⅱ相試験のdMMR サブグループ解析などで、dMMR 固形がんに対する有効性が再現された。

dMMR 固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬の有効性は、化学療法歴のある患者を対象に示されていることから、現時点では 1次治療の治療選択肢とはならない。dMMR 判定検査法のturnaround time(TAT)を考慮すれば、原則としてdMMR 判定検査の結果を待つことなく、臓器別に確立された1次治療(標準的な治療)を開始することが望ましいと考えられる。ただし、胃がんにおけるHER2 検査、大腸がんにおけるRAS/BRAF 検査など、臓器によっては腫瘍組織検体を用いた遺伝子検査の結果に基づいて、分子標的治療薬を用いた1 次治療が選択される。この場合には、これらの検査と同時にdMMR 判定検査を実施しておくことも、限られた腫瘍組織検体の活用および将来的な抗PD-1/PD-L1 抗体薬の治療機会を逃さないという観点から妥当であると考えられる。一方で、非小細胞肺がんでは、遺伝子検査に利用可能な腫瘍組織検体の量が限られる場合があり、EGFR、ALKやPD-L1 発現などdMMR 判定検査よりも重要度の高いバイオマーカーの検索が優先される。

また、dMMR 大腸がんではKEYNOTE-164 試験により、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍薬、オキサリプラチン及びイリノテカン塩酸塩水和物による化学療法歴を有する患者(コホートA)だけでなく、1レジメン以上の化学療法歴を有する患者(コホート B)においても63 例での治療成績として、ORR 32%(95%CI 21–45)、PFS 中央値4.1 か月(95%CI 2.1–NR)、OS 中央値未到達と良好な結果が報告されていることから、2 次治療以降でのペムブロリズマブの使用が考慮される。さらに、1 次治療例を対象とした標準治療とペムブロリズマブ療法を比較検証する第Ⅲ相試験も実施されており、本試験でdMMR 大腸がんに対する1次治療でのペムブロリズマブの有効性が確認されれば、1 次治療開始前のdMMR判定検査が望ましいであろう。

がんの種類や治療ライン毎の十分な症例数での報告ではないものの、dMMR 固形がんでは一貫して抗PD-1/PD-L1 抗体薬の有効性が確認されている。分子生物学的にも dMMR 固形がんでは共通して高い免疫原性が示唆されている。有害事象もしばしば生じる重篤な免疫関連有害事象への留意は必要であるものの、概ね忍容可能である。よって、有効性・安全性の観点から抗PD-1/PD-L1 抗体薬の臓器特異的な適応が得られていない固形がんを含めて、全てのdMMR固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬は有力な治療選択肢となりえる。先の臨床試験は、標準的な薬物療法が困難(治療抵抗性、有害事象による不耐、患者の希望による未実施を含める)な患者が対象であった。がん増悪時に患者の全身状態が悪化する場合も多く、dMMR 判定検査のTAT を考慮すれば、早めにdMMR 判定検査を実施し、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応の有無を判断しておくことが望ましい。

以上より、標準的な薬物療法を実施中、または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するために、dMMR 判定検査を強く推奨する。

MMR 機能に関わらず抗PD-1/PD-L1 抗体薬がすでに実地臨床で使用可能な切除不能固形がん患者に対し、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を考慮する。

推奨度Expert Consensus Opinion [SR: 1, R: 10, ECO:5, NR: 0]

2019年4月時点で、抗PD-1 抗体薬および抗PD-L1 抗体薬として実地臨床で使用可能もしくは将来的に使用可能な見込みの固形がんは表13のとおりである。

表13. 抗PD-1/PD-L1 抗体薬承認済みの固形がん(カッコ内は2019年4月の時点での承認見込み)

がんの種類

患者選択

Treatment line

Agent

悪性黒色腫 なし 1st line~ ペムブロリズマブ
ニボルマブ
非小細胞肺がん PD-L1陽性* 1st line~ ペムブロリズマブ
ニボルマブ
アテゾリズマブ
デュルバルマブ
腎細胞がん なし 2nd line ~ ニボルマブ**
頭頚部がん なし 2nd line ~ ペムブロリズマブ
ニボルマブ
胃がん なし 3rd line ~ ニボルマブ
悪性胸膜中皮腫 なし 2nd line ~ ニボルマブ
尿路上皮がん なし 2nd line ~ ペムブロリズマブ
メルケル細胞がん なし 1st line~ アベルマブ
小細胞肺がん なし 1st line~ アテゾリズマブ
乳がん なし 1st line~ (アテゾリズマブ***)
食道がん PD-L1 陽性 2nd line ~ (ペムブロリズマブ)
(ニボルマブ)
肝細胞がん なし 2nd line
1st line
(ペムブロリズマブ)
(ニボルマブ)
*
ペムブロリズマブ単剤での投与時のみ
**
イピリムマブとの併用で1次治療で承認
***
トリプルネガティブ乳がんに対してナブパクリタキセルと併用で承認見込み

2 次治療以降でMMR 機能に関わらず抗PD-1/PD-L1 抗体薬の使用が可能である固形がんでは、MMR 機能によらず抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応が判断されることから原則としてdMMR 判定検査を実施する必要はないと考えられる。ただし、胃がんにおいては、マイクロサテライト不安定性の有無に関わらずニボルマブ療法が3 次治療以降での使用が推奨されているものの、dMMR に限っては2 次治療以降での使用がガイドラインで推奨されている 60)。このように、MMR 機能によって、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の治療ラインが早まることが想定される場合には、dMMR 判定検査を実施することも考慮される。

また、PD-L1 発現等のdMMR以外のバイオマーカーによって抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応が判断される固形がんでマーカーが陰性だった場合、 図8 のようにdMMR であれば抗PD-1/PD-L1 抗体薬の有効性が期待できると考えられることから、dMMR 判定検査を実施することが推奨される。

【まとめ がん種別推奨】

図8. がんの種類別推奨

image008
*
その他の固形がん:1次治療または2次治療として抗PD-1/PD-L1抗体薬が承認されている固形がん以外
**
PD-L1発現等の抗PD-1/PD-L1抗体薬の適応を判断するバイオマーカーとdMMR判定検査を同時に行うか、順次行うかは、がんの種類によりバイオマーカーの優先度が異なるため留意すること
局所治療で根治可能な固形がん患者に対し、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。

推奨度No recommendation [SR: 0, R: 0, ECO: 3, NR: 13]

悪性黒色腫では、術後補助療法として抗PD-1 抗体薬の有効性が示され、薬事承認されている(KEYNOTE-054 試験 61)、ONO-4538-21 試験 62))。さらに、非小細胞肺がんでは白金製剤を用いた根治的同時化学放射線療法(CRT)後に病勢進行が認められなかった切除不能な局所進行例(ステージIII)を対象とし、抗PD-L1 抗体薬デュルバルマブを逐次投与する無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同第Ⅲ相試験であるPACIFIC 試験の結果、薬事承認されている 63)。しかし、これらの試験ではMMR 機能による効果の差は報告されていないことから、治療前のdMMR 判定検査は原則不要である。また、それ以外の固形がんにおいては、周術期治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は確立されていないことから、局所療法で根治可能な場合には治療薬の選択のためのdMMR 判定検査は原則不要である。以上より、現時点では局所進行および転移が認められない固形がん患者に対し、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するために、dMMR 判定検査は推奨されない。

ただし、大腸がんでは、特にStage II結腸がんにおいて、dMMR は予後良好因子であり、dMMR であればフルオロピリミジンによる補助化学療法が不要であるということが知られており、補助化学療法の実施の判断のために、dMMR 判定検査を行うことが望ましいとされている(詳細は「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第3 版」参照)。さらに、現在、術前後の免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検証する試験や、局所進行がんに対して放射線化学療法と併用する試験が行われており、良好な結果が得られれば局所治療で根治可能な固形がんに対してもdMMR 判定検査が必要になってくる。

抗PD-1/PD-L1 抗体薬が既に使用された切除不能な固形がん患者に対し、再度抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。

推奨度No recommendation [SR: 0, R: 0, ECO: 3, NR: 13]

一部の固形がんではMMR 機能に関わらず抗PD-1/PD-L1 抗体薬が薬事承認されている。既に抗PD-1/PD-L1 抗体薬が投与されている場合に、異なる抗PD-1/PD-L1 抗体薬を投与する際の効果は示されていない。よって、抗PD-1/PD-L1 抗体薬を投与する目的に、既に使用された固形がん患者に対しdMMR 判定検査は推奨しない。

すでにリンチ症候群と診断されている患者に発生した腫瘍の際、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨する。

推奨度Recommendation [SR: 10, R: 6, ECO: 0, NR: 0]

リンチ症候群関連大腸がんでdMMR の頻度は80-90%と 64)高いものの、リンチ症候群の患者で発生する腫瘍が必ずしもdMMR であるとは限らない。抗PD-1/PD-L1 抗体薬の有効性は、腫瘍のMMR 機能によって影響を受けることから、リンチ症候群の患者においてもpMMR の腫瘍には抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果は期待できないと考えられる。よって、リンチ症候群の患者に発生した腫瘍に対しても、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するための、dMMR 判定検査が推奨される。