4. クリニカルクエスチョン(CQ)

CQ2
dMMR判定検査法
抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、MSI 検査を強く推奨する。

推奨度Strong recommendation [SR: 16, R: 0, ECO: 0, NR: 0]

KEYNOTE の5 つの試験(KEYNOTE-016 試験、KEYNOTE-164 試験(コホートA)、KEYNOTE-012 試験、KEYNOTE-028 試験、KEYNOTE-158 試験)のdMMR 症例の統合解析では、各施設の判定においてIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と判定された患者が登録され、ペムブロリズマブの良好な抗腫瘍効果が示されている。149 名のうち、60 名がMSI 検査のみ、47 名がIHC 検査のみ、42 名が両方の検査でdMMR と判定されている 65)。そのうち、14 名のみが中央検査施設でのMSI 検査によりMSI-H と確定されている。また、dMMR と判定された大腸がん患者を対象としたニボルマブ療法の第Ⅱ相試験(Checkmate-142 試験)でも、各施設でのIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と判定された患者が登録され、ニボルマブの有効性が示されている 57)。以上より、がんの種類による違いが存在する可能性はあるものの、少なくともIHC 検査またはMSI 検査のいずれかによりdMMR と判定されれば、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の投与の適応となり得ると考えられる。

本邦では2018年9月、「MSI 検査キット(FALCO)」がペムブロリズマブのコンパニオン診断薬として薬事承認されており、国内のどの施設からも本検査をオーダーすることが可能であり、検査は質保証された検査機関で実施される。また、本検査キットは腫瘍組織40%以上の場合には、腫瘍組織のみでもdMMR 判定が可能であり、利便性も高い 40)。以上より、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、MSI 検査は強く推奨される。

抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、IHC 検査を推奨する。

推奨度Recommendation [SR: 10, R: 6, ECO: 0, NR: 0]

先に述べたように、KEYNOTE の5 つの試験の統合解析、Checkmate-142 試験ともに各施設でのIHC 検査またはMSI 検査でdMMR と診断された患者を対象とし、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されており、両試験においてIHC 検査においてのみdMMR と判定された患者においても抗PD-1 抗体薬の有効性が示されている。実際、Checkmate-142 試験では、MSI 検査(Bethesdaパネルに用いられている5 つのマーカーとTGFR type2)による中央判定を行っているが、各施設ではdMMR と判定された74 例中のうち14 例がNon MSI-H と判定された。しかし、14 例のうち3 例(21%)で奏効が得られており 57)、結果が一致せずどちらか一方のみでdMMR と診断されている場合でも、免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果は期待できると考えられる。IHC 検査はMSI 検査やNGS 検査と比較して安価に各医療機関で実施することが可能である。ただし、2019年3月時点では国内で体外診断薬医薬品として承認されたIHC 用抗体薬はないこと、抗体の種類や染色条件による違いや判定法が十分に確立されていないなど、いくつかの課題がある。以上より、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、IHC 検査は推奨される。(ただし、2019年3月時点では国内で体外診断薬医薬品として承認された抗体薬はない。)

MSI 検査とIHC 検査は、高い一致率が報告されている一方で、不一致例の存在も報告されている。その一例として、MMR 遺伝子の病的なミスセンスバリアントがあげられる 66, 67)。この場合、MMR 機能喪失したタンパク質が発現しているため、MSI 検査ではMSI-H を示しdMMR と判定されるが、IHC 検査ではMMR タンパクが検出され、pMMR と判定される(偽陰性)。dMMR であるこの腫瘍に対して抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果は期待できると想定される。このようなミスセンスバリアントはリンチ症候群の5%程度を占めると報告されている 68)。一方で、MSI 検査の偽陰性としては、腫瘍細胞比が低い場合などが考えられる。実際、MSI 検査(FALCO)では50%以上の腫瘍細胞比が推奨されている。IHC 検査またはMSI 検査による陽性的中率は90.3%と報告されている 69)。IHC 検査またはMSI 検査でdMMR 固形がんと診断され、抗PD-1/PD-L1 抗体薬を投与された症例のうち、奏効が得られなかった症例を再度MSI 検査とIHC 検査両方で評価すると60%がMSI-L/MSS/pMMR であったとの報告もある 69)。抗PD-1/PD-L1 抗体薬による恩恵が受けられる患者を幅広く拾いあげるという観点から、両検査の特性を理解して検査を行う必要があり、偽陰性・偽陽性の理由が想定可能な場合や検査精度・結果に疑問が残る場合には、もう一方の検査を追加実施することを検討する。

抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、分析学的妥当性が確立されたNGS 検査を推奨する。

推奨度Recommendation [SR: 7, R: 9, ECO: 0, NR: 0]

本邦において、2018年12月27日、固形がん患者を対象とした腫瘍組織の包括的ながんゲノムプロファイルを取得する目的、および一部の分子標的治療薬の適応判定のため体細胞遺伝子異常を検出する目的でFoundationOne CDx が製造販売承認された。FoundationOne CDx にはNGS 法によるMSI 判定も付随していることから、それぞれのがん種毎に、関連学会の最新のガイドライン等に基づく検査対象及び時期で、包括的がんゲノムプロファイリング検査と同時にMSI 検査(NGS 法)が実施される。ただし、2019年3月時点ではFoundationOne CDx を用いたdMMR 判定は、保険償還されておらず、またFoundationOne CDx 検査の実施には施設要件があることからも、NGS 法によるdMMR 判定は国内の限られた施設のみでしかアクセスできないと予想される。また、FoundationOne CDx では一定程度のfailure rate があり、解析に必要なDNA 量も多いことから検査のfeasibility に課題がある。

ペムブロリズマブのFDA 承認申請に用いられたKEYNOTE の5 試験やCheckmate-142 試験では、dMMR のスクリーニング検査にNGS 検査は含まれていない。しかしながら、NGS 検査によるMMR機能の判定とMSI検査は、マイクロサテライトの反復回数を用いてdMMR かどうかを判定しているという点でその測定原理も類似し、また両者の一致率は、大腸がん99.4%、大腸がん以外の固形がん96.5%と極めて高いことが報告されている 70)。さらに、不一致例を解析するとIHC 検査ではdMMR であり、NGS 検査がより有用であることも示唆されている。そのため、MSI 判定の分析学的妥当性が確立されたNGS検査によってMSI-H と判定された患者に対し、コンパニオン診断薬MSI 検査(FALCO)やIHC 検査での再確認は科学的には不要である。以上より、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として、分析的妥当性が確立されたNGS 検査は推奨される。

【注釈 リキッドバイオプシー検査】

血液や尿などの体液サンプルを用いて、直接腫瘍組織を用いることなく、腫瘍の状態を診断するリキッドバイオプシー検査の有用性も報告されている。血液中には通常でも一定量の遊離DNA が存在しているが、がん患者ではその量が増えることが知られている。正常細胞・腫瘍由来を含め、血漿中に存在するDNA をcell free DNA(cfDNA)と呼ぶ。がん患者におけるcfDNA は腫瘍由来のものも含まれることから、circulating tumor DNA(以下ctDNA)と呼ばれることも多い。腫瘍組織、ctDNA をそれぞれMSI 検査キットとNGS 検査とで検証した報告では感度(86-100%)・特異度(99-100%)ともに高いと報告されており 71, 72)、検査のための腫瘍組織がない場合は、低侵襲かつリアルタイムに腫瘍の遺伝子異常を検出する検査法としてctDNA を用いた検査も期待される。

【注釈 TMB/PD-L1 とMMR の関係】

抗PD-1/PD-L1 抗体薬の有効性に対するバイオマーカーとしてMSI-H、TMB-H (tumor mutation burden high)、PD-1/PD-L1 タンパク発現が報告されている。

がんの種類により因子の割合は異なり、他因子とも交絡しうるものである。11,348 例の固形がんにおけるMSI(NGS法)、TMB、PD-L1タ ンパク発現の関連を検証した報告では、がんの種類により頻度や交絡状況も様々である(図970)。現時点では抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応症に記載のあるものとして、「PD-L1 陽性(TPS ≥ 50%)の化学療法未治療の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者に対するペムブロリズマブ」、「がん化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Hを有する固形がんに対するペムブロリズマブ」のみである。しかし、今後臨床試験がすすみ、新たな結果が得られることでバイオマーカー毎の適応症が拡大される可能性は十分ある。また、Checkmate-142 試験では、dMMR と判定された患者において、PD-L1 発現の有無とニボルマブの治療効果に相関を認めなかった 57)ことから、PD-L1 発現陰性であったとしてもdMMR であれば抗PD-1/PD-L1 抗体薬の治療効果が期待できると考えられる。

以上より、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するための検査としてTMBおよびPD-1/PD-L1 検査は現時点では必須ではないが、今後抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果が期待出来る患者をより選別することを目的に推奨される可能性は高い。

図9. MSI-H / TMB-H / PD-L1 status のがんの種類毎の関連性 70)

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