2.5 dMMR 固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬

PD-1(CD279)分子は、CD28 ファミリーに属する免疫抑制性補助シグナル受容体であり、1992年に本庶らによってクローニングされた 52)。その後、PD-1 は活性化したT細胞・B細胞および骨髄系細胞に発現し、そのリガンドとの結合により抗原特異的にT細胞活性を抑制することから、末梢性免疫寛容に重要な役割を担う分子であることが明らかにされた。PD-1 のリガンドには、PD-L1(CD274, B7-H1)とPD-L2(CD273, B7-DC)がある。PD-1/PD-L1 経路はT細胞免疫監視から逃れるためにがん細胞が利用する主な免疫制御機構で、様々な固形がんにおいて確認されている。

この経路を遮断するモノクローナル抗体薬として、抗PD-1 抗体薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)および抗PD-L1 抗体薬(アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ)が実地臨床に導入されている。腫瘍微小環境中の腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T lymphocyte; CTL)を活性化させ、抗腫瘍免疫を再活性化することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。従来の殺細胞性抗がん剤や分子標的薬とは異なる作用で抗腫瘍効果を発揮する。dMMR 固形がん以外では、2019年2月現在までにFDA で10 種類、本邦では8 種類の固形がんに対し承認を得て、実地臨床で使用されている。既報における各固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬の奏効割合をまとめると図6 のようになる。

図6. がんの種類別・試験毎の抗PD-1/PD-L1抗体薬の奏効割合

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注:同じ固形がんでも試験が異なる場合には棒グラフの重複あり。緑はdMMR固形腫瘍。

dMMR 固形がんではMMR 機能欠損により高頻度にゲノムに変化が生じる。そのことでアミノ酸に変化を伴うタンパク質が合成されることがあり、その一部が抗原ペプチドとしてヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen; HLA)により提示される。その新たな抗原をneoantigen と呼び、それらは非自己として認識されるために腫瘍組織におけるTh1/CTL が活性化される。一方でnegative feedback としてPD-1 等の免疫チェックポイント分子の発現が誘導される。このように、dMMR 固形がんでは免疫系による腫瘍に対する制御機構が抑制に重要な役割を担っており、抗PD-1/PD-L1 抗体薬の効果が期待できる。

大腸がんを含む全固形がんを対象にペムブロリズマブの有効性・安全性を探索する第Ⅱ相試験であるKEYNOTE-016 試験において、12 種類のdMMR 固形がん、86 症例の結果が報告されている 53)。奏効割合(Objective Response Rate: ORR)53%(95%CI 42–64%)、完全奏効(Complete Response: CR)21%と良好な結果であった(図7)。無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)、全生存期間(overall survival: OS)ともに中央値に達しておらず、固形がんの種類による明らかな差は認めなかった 53)

図7. KEYNOTE-016 試験に登録されたdMMR 固形がんにおけるペムブロリズマブの効果 53)
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さらに、dMMR 大腸がん患者を対象としたペムブロリズマブ療法の第Ⅱ相試験であるKEYNOTE-164 試験が、フッ化ピリミジン系薬、オキサリプラチン及びイリノテカン塩酸塩水和物による化学療法歴を有する患者(コホートA)と1レジメン以上の化学療法歴を有する患者(コホート B)の2 つのコホートで行われた。コホートA 61 名の治療成績はORR 28%(95%CI 17–41)、PFS中央値2.3 か月(95%CI 2.1–8.1)、OS 中央値未到達と良好であった。また、奏効期間(duration of response: DoR)は中央値未到達で、奏効が得られた患者の82%で6 か月以上のDoR が得られていた 54)。同様に、標準治療不応・不耐のdMMR 進行固形がんを対象としたペムブロリズマブ療法の第Ⅱ相試験KEYNOTE-158 試験では、94 例での治療成績として、ORR 37%(95%CI 28–48)、PFS 中央値5.4 か月(95%CI 3.7–10.0)、OS 中央値13.4 か月(95%CI 10.0–未到達)と良好な結果であり、がんの種類を問わず効果が示された。また、DoR は中央値未到達、奏効が得られた患者の51%で6 ヵ月以上のDoR が得られ、効果が持続することも合わせて示された 55)

有害事象については、KEYNOTE-164 試験において57.4%に認められ、主な副作用(10% 以上)は、関節痛(16.4%)、 悪心(14.8%)、下痢(13.1%)、無力症(11.5%)、掻痒症(11.5%)であった 54)。KEYNOTE-158 試験では61.7%に有害事象が認められ、主な副作用(10% 以上)は、疲労(11.7%)、掻痒症(11.7%)であった 55)。さらに、MSI-Hを有する固形がんに対してペムブロリズマブ適応追加承認時の有害事象発現頻度報告では(悪性黒色腫・非小細胞肺がん・古典的ホジキンリンパ腫・尿路上皮がん症例を含む)、Grade3 以上の有害事象が20.7%、1%以上で認められたものとして好中球減少症(2.9%)、血小板減少症(1.3%)下痢(1.4%)、肺臓炎(1.4%)、倦怠感(1.3%)で認められたと報告されている。従来の抗悪性腫瘍薬と異なり、関節炎・悪心・倦怠感・搔痒症等の有害事象だけでなく、自己免疫疾患様の特有の免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)が出現することがあり、全身管理に注意する必要がある(詳細は「がん免疫療法ガイドライン」参照)。