1.1 本ガイドラインの必要性と目的

本邦では悪性新生物(がん)により年間約38 万人が死亡し、死因の第1位である。がんの治療成績向上は国民にとって非常に重要な課題である。がん薬物療法の分野では、有効な新規治療薬の登場とともに治療成績が向上し、予後が改善してきた。同時に治療前に有効性が期待できる集団を同定するバイオマーカーの開発も、がんの治療成績向上に寄与してきた。

2018年12月、本邦において進行・再発dMMR 固形がんに対し、抗PD-1 抗体薬ペムブロリズマブが薬事承認された。臓器横断的な適応症をもつ薬剤としては国内初のケースとなる。本治療は、治癒困難な固形がんへの新たな治療選択肢として期待される一方で、本治療を実地臨床に実装する上でいくつかの課題が挙げられる。

  1. 専門性の異なる多数の診療科が診断・治療に関与するため、各診療科単位あるいは各臓器がん単位で異なる診療が行われることで現場に混乱を来す可能性
  2. マイクロサテライト不安定性検査など適応を判断する検査に対する認知度の低さ
  3. 免疫チェックポイント阻害薬特有の有害事象への対応
  4. リンチ症候群のスクリーニングにも繋がるため、遺伝診療の体制整備

上記の課題に対し、現在発刊されている各診療ガイドラインには、dMMR を有する固形がん患者に対し免疫チェックポイント阻害薬を投与する際の要点について、一部記載があるに過ぎず、臓器横断的に要点を網羅したガイドラインはない。そのため、可能な範囲で臓器横断的な共通見解をとりまとめ、診療指針の目安を示すことは、臨床現場に混乱をもたらさないためにも重要である。

本ガイドラインでは、dMMR 固形がん患者を診療する際に留意すべき事項を、ミスマッチ修復機能欠損検査のタイミング・方法、抗PD-1/PD-L1 抗体薬療法の位置付け、診療体制を含めて系統的に記載した。さらに、近年の検査技術の進歩に伴い、次世代シークエンス法による包括的遺伝子検査や血液サンプルを用いた体細胞遺伝子検査(リキッドバイオプシー)の開発が急速に進んでいることを受けて、これら新しい検査法についても内容に含めた。本邦の実地臨床において、本ガイドラインに記載の推奨度に基づき、適切な患者に、適切な検査が行われ、適切な治療が適切なタイミングで実施されれば、固形がん患者の治療成績が向上することが期待される。